「場の量子論:輻射補正と繰り込み」集中講義 

3年連続3回目となる日置善郎氏(徳島大学名誉教授)による大学院生向けの場の理論の集中講義を3日間行いました。

今回は日置さんの場の理論の教科書の内容を超えて「場の量子論:輻射補正と繰り込み」というタイトルで講義をしてもらいました。

早朝10kmのランニング、昼間は講義、夜は宴会と、そのパワーに毎度驚かされます。我々も負けずに頑張りたいと思います!

概要:
 相対論的な場の量子論における共変摂動論は,様々な散乱過程・崩壊過程の精密な記述を可能にする強力かつ信頼性の高い計算手法であり,素粒子物理学の重要な基礎となっている.しかしながら,この理論も,誕生以来しばらくの間は深刻な困難に苦しんでいた.すなわち,その枠内で実際に種々の物理量の計算を始めると,第1次近似(最低次近似)では何の問題も生じないものの,そこで得た結果に対する摂動高次項からの補正[輻射補正]には しばしば発散する積分が現れ,求める物理量が無限大になってしまったのである.
 これを解決しようとする試みの中で 朝永‐シュヴィンガー‐ファインマンにより見出されたのが「繰り込み」という技法である.これは,理論を記述する基本パラメータを実際に我々が測定する際には その値は外界からの影響で必然的に変化することに注目し,その差の中に無限大の量を押し込める(繰り込む),というものである.この操作を施すことにより,考察している物理量から無限大の項は全て除去され,有限な結果が導かれる.この結果,量子電磁力学などにおいては,摂動の高次項まで含めた理論値と対応する実験値の間に見事な一致が見られている.
 この講義においては,相対論的場の量子論の基本構成・基本事項を復習したのち,スカラー場の φ4 模型を用いて摂動の最低次および次の近似においてスカラー粒子散乱の不変散乱振幅を計算し,それを通じて発散積分が生まれてしまう仕組みを実際に体験する.次に,その発散量は,どのような考え方により除去できるかを示し,それを系統的に進めるための繰り込み手法を紹介する.続いて,この繰り込み手法が如何に量子電磁力学に適用されるかにつき解説し,最後に,理論と実験の比較において処理しなければならない他の発散-赤外発散など-にも簡単に触れる.

内容:
1. 場の量子論の基本構成・基本事項
2. 摂動第1次近似でのスカラー粒子散乱
3. 最低次近似を超えて:輻射補正
4. 紫外発散と繰り込みの考え方
5. 発散積分の有限化:次元正則化法
6. 繰り込み処方:相殺項と繰り込み条件
7. 量子電磁力学の繰り込み
8. 重い粒子の寄与:脱結合定理
9. 赤外発散・質量発散